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「銀」の再評価

※本記事は株式市場スタジオブルポの資産のあり方を考察する上での基準を示したもので、特定の金融商品への投資を勧める意図はありません。


日本は長いデフレから脱却し、良くも悪くもインフレの波にさらされている。新NISAの拡充もあり多くの日本国民は円を金融資産に逃す必要に迫られているが、その戦略として「銀」を考えたい。


流行りのS&P500インデックス投資

各種投資信託よりもインデックスの方がパフォーマンスが良い事、個別企業の決算や財務を他企業と比較しインデックスよりも高パフォーマンスを発揮するかを調査する知識の障壁と時間コストの問題から、S&P500インデックス、あるいはオールカントリー株式インデックス投資が推奨されている。前者は世界を主導し、投資マネーや先端産業が終結するアメリカ株に投資するもので、高パフォーマンスを実現してきたうえ、今後もそれが継続されることが期待されている。後者は世界中の主だった国々の様々な産業のインデックスで、現状は米国株に偏重しているが(60%以上)、世界の潮流に合わせてポートフォリオを変更する商品となる。

新NISAの拡充もありYouTubeには様々な投資手法が公開されることとなったが、過去、現状、今後を予測してもアメリカが凋落することが考えにくい事から、リスク資産の分野はS&P500インデックスで固めることが本筋とされやすい。


S&P500インデックスの長期保有リスク

事実、米国は強力な軍事力を持ち国内通貨のドルは世界基軸通貨として通用し、国内に資源もある。AIを始めとしたIT産業、金融で世界をリードし、その座が簡単に譲られることは考えにくい。脅かす可能性のある中国の経済は停滞しており、日本も、仮に米中冷戦の恩恵から経済を飛躍させたIT産業を飛躍させたとしても過去にプラザ合意や日米半導体協定を半ば強制的に結ばされた歴史もありリスクが高く、投資マネーが集まるとは考えにくい。中国と手を組み二人三脚で米国に対抗する手立ても日本の世論、そして中国世論が許さないように感じる。

しかし、米国がその地位を利用しドルを人質に取り自国第一主義の方針を取り始めた結果、米国の世界的プレゼンスは減少、ドル離れも加速し、米国はその対策として関税を引き合いに出すなど経済戦争の側面を強めている。また米国の自国第一主義によりTPPからの脱却などアジアから撤退した結果、自動車の買い手やインフラ整備の受注者を失いUSスチールの買収騒動に象徴されるような産業の空洞化が強められている。インデックス投資は数十年単位での長期保有におけるパフォーマンスを期待されて購入されているが、ここ100年の米国経済の成長を頼りに未来30年を託すのは心もとない。


S&P500インデックスの短期的リスク

2008年のリーマンショックを受けて始まった量的緩和政策、コロナショックを受けてのさらなる緩和政策によって生まれた大量の流動性が米国株に集中したことによりS&P500インデックスは2023年、2024年に年20%以上の上昇を記録。特に日本からしてみれば円安もありその恩恵は大きい。2024年の25.18%の上昇は、2023年の24.23%を受けてのものであるため、2022年末から見た2024年の上昇量は31.28%に上るため、複利の効果だと盛んに騒がれている。しかしこの計算には逆に前年の40%増加が当年の30%下落により元本が98%になる(1*1.4*(1-0.3)=0.98)ことも忘れてはならない。また、S&P500を主導するエヌビディアだが、CUDAでAIの学習面を囲い込んだ成長期待によりPERは110倍を記録している。PER110倍となるとインカムゲインで株を支払った分を取り戻すには110年かかる。これが是正されるにはエヌビディアの利益が毎年倍増することを3,4年続けなければならないが、エヌビディアを支えるTSMCの生産力がそれを支える見込みはない。原価率を抑え高付加価値をつけたGPUの販売により主要ビッグテックもエヌビディアからの脱却を目指している。加えて米国の輸出規制もあり、売り上げ及び利益をそのペースで上昇させられるかには疑問が残る。そうなるとキャピタルゲインで新規参入者に高価格で株を売りつけるしかないが、決算次第で株価が長期的に下落する米国株にそれを継続できるかの疑問も残る。以上によるエヌビディアの株価下落が起こった場合テックの信頼低下により全体のリスクオフが広まり大幅下落が考えられる。


有事の金銀

ドル離れ、株価の下落リスクとなると、キャッシュに逃したくもなるが、現状米国は軍事費規模の利払いが求められるレベルの膨大な米国債を抱えている。FRBはインフレの圧力に対して政策金利を高止まりさせることによりインフレを抑えることに成功しているが、これは米国債の借り換えを高金利米国債で行うことを意味し、将来的なインフレリスクとなっておりキャッシュの信用性も薄れている。日本国民からすると「ドルが弱くなるならば円を持っていればいい」ということになるが、日本は世界最大の債権国とはいえ米国債を大量に保有しており、ドルの棄損は米国国債の棄損を意味し、金利の上昇も米国国債の価格下落になるためドルの信認低下は円の信認低下を意味する。そうなると残りはレガシー通貨として通用する金と銀になる。


金と銀

一般的には価値の保存先として最も有用なのは金で、それに依存はない。希少性、電導性、展延性にすぐれ、その見た目を人間が動物として好むことは歴史が証明しているが、その輝きは金の全金属中最大の耐腐食性により担保されており、王水によってでしか酸化反応を示さない。今日の金が1000年後の金として存在し科学的に生成がほぼ不可能であることから、いま所有する信用により手に入れた金が、年をまたいで信用性を発揮し続けることは前提として考えたい。一方の銀は金と似たような性質を持つが、電導性は全金属中最大であり、電熱性にも大変優れる。しかし埋蔵量は金の7倍ほどあり希少性は金ほどではなく。また銀は硫化するため、本来の性質を失うことはないが磨かなければその美しさは損なわれるため、今日では価値の保存というよりは工業用途での需要が全体の半分を占める。


金と銀の短期的リスク

金が価値保存の手段として最も有用である一方、いま金が持つ信用が信用創造によって肥大されてるとかんがえることもできる。現状世界のGDPに対し5倍前後の信用創造が行われており、それは当然金にも込められているため、信用収縮が起こった場合は理論的に金の価格には最大80%の下落余地がある。一方の銀は産業の需要に支えられているため、現在直面している中国経済の停滞や西洋のリセッションに伴って世界経済が停滞すると銀の需要は減り、産業需要面による最大50%の下落、そして一見すると信用収縮によりさらに80%の下落を喫し、合わせると90%の下落余地がある。


金と銀の価格比率

銀でできた食器や文房具を高級品だと考える人も多く、銀貨といえば金貨には劣るものの歴史的には物々交換の手段とされ、銀の含有量の低い通貨の信用の無さなどは義務教育の過程で繰り返し習ってきたことだろう。歴史的に銀の価格は金の15~20分の1とされており、開国付近の日本での金と銀の交換レートが1:4であったために大量の金が日本から流出したことも有名だ。そして今日に至り銀よりも金の方が採掘が容易であることなどからその交換レートはさらなる広がりを見せている。しかし、現実は想像よりも遥かに過激だ。金の1kgのインゴットは2025年1/16のレートで1498万円となっている。10gでは15万円。金の1kgは大変小さく、例えるならエアコンのリモコンの半分くらい。あるいは20本入りのたばこの箱よりひと回り大きいくらいのサイズになる。一般的な延べ棒として意識されるサイズは10kgほど、つまり1.5億円分のものであり、10gともなれば爪ほどのサイズになる。一方の銀は2025年1/16のレートで1kg17万3470円となり、爪ほどの金価格でインゴットを購入でき、金銀比は1:88となっている。


銀の圧倒的過小評価

上記の通りレガシー貴金属である「銀」は金に対して圧倒的な価格差をつけられているが、その用途は太陽光発電や半導体における電導素材、電熱素材として幅広い。電力需要が旺盛になる世界的潮流からしても、その需要は計り知れず、2024年まで4年間継続して需要が供給を超え、2025年もそれが継続する見込みとなっている。銀主要産出元のメキシコ銀山は数年で銀が枯渇する見込みで、各国、新たな銀輸入先を探す必要に迫られている。個人投資家が銀を手に入れることも甚だ困難で、貴金属を扱う業者も開店して10~30分で銀がSOLD OUTする自体となっている。この裏には銀の産業需要が旺盛であることと共に、銀をレガシー通貨として認める一定層による買い需要がある。しかし一方で、銀の価格が低いことにより銀の価値が下がり、それが低価格を維持しているという現実もある。銀価格は安すぎるため銀産出は、限定的であり、その流通や販売に関しても薄利の割に重いために扱いが少ない現状にある。つまり希少性の割に価格が低く、価格が低い割に希少という事態になり、流通量は金よりも少ないと言われている。銀価格が上昇すると価値保存としての価値が生まれ銀価格が上昇する可能性を秘めているともいえる。


銀を手に入れること

そのデカくて安い銀をどの様に買うかという問題だが、まずはETFや権利としてのデジタル上のペーパーシルバーがある。利点としてはインゴットの鋳造手数料や送料、倉庫代がかからず、流動性が十分にあるので手軽に銀投資を行うことができる。一方デメリットとしては、ペーパーシルバーの量が銀の400倍以上あるとされており、いざ銀を手に入れようとした場合、一定の層が銀を引き出しにかかった時点である種の取り付け騒ぎとなる。現物が存在しないとなるとペーパーシルバーの価値は紙屑となる。一方の銀現物は銀を直接取得できるが、インゴットにする手数料や送料がかかる。また、信用があるから当然だが銀価格それ自体のレートが紙のレートよりも10%ほど高く、初期投資の額が多めになる。また銀インゴットは、その純度の信用性を担保するためにはLBMAというイギリスの組織の認定を受けねばならない。銀のLBMA認定を受けた業者は大変少なく購入先が限られる。LBMA認定を受けていない銀の買取は相場の6割程になるか買い取ってもらえず、その銀を買った店に売り戻すか、メルカリなどでリスクを負って売却する形になる。保存に関してはビニールに包まれて送られてくるが、破けた場合や長く保存した場合にプラスチックや空気と化学反応し黒ずんで見た目が悪くなるリスクがある。また泥棒による盗難や火事による刻印の消失(銀の融点は961.8度であり、火事は2時間で1000度に達する)による価値下落リスクがあり、それを防止するために貸金庫サービスを利用する場合は年間利用コストが2万円ほど必要になる。


銀自体の分散投資

上記のことから銀は保存方法や出口戦略に難点があるため、投資するにしても分散が求められる。LBMA認定を受けた銀インゴットを生産することのできる徳力本店や石福金属工業などからの購入や、売却はかなり難しくなるが世界的企業(スイスのPAMP等)からの購入も必要かもしれないし、銀としての買取価格は期待薄になるがプレミアを期待して銀貨に振り分けるのもありかもしれない。


結論

ポートフォリオの中に一定量「銀」を組み込む場合にはリスクがありコストもかかるが、歴史的に最大級の過小評価をされているこの貴金属は、歴史ファンの私としては取り入れてもよいと考える。


2025年1/16日  金価格:1g 14983円   銀価格:1g 173.47円


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